大阪都構想に対する包括的な批判は、本誌168号に本郷隆夫さんが書かれた。
 本郷さんが論評の対象にした大阪維新の会の「設立趣意書」(正確には、大阪府議会における「新会派『大阪維新の会』設立趣意書」)には、「新たな地域経営モデル」を実現するための「当面の目標」が掲げられている。目標のひとつが「議会の機能強化による決定と執行の分離」であるが、その内容がどのようなものなのかはどこにも示されていない。また、本郷さんが指摘するように、「議員が執行機関の幹部になる」という橋下発言もあった。しかし、その言葉は「決定と執行の分離」とは矛盾する。
 橋下知事は、テレビ番組などでの発言をとおして「都道府県や指定都市においては議院内閣制を実現すべきだ」とも主張している。しかしこれは、憲法第93条第2項が「地方公共団体の長、その議会の議員(中略)は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と規定しているので現段階では実現が不可能である。知事も「憲法改正が必要だ」と前置きしている。
 
3 「議員定数削減」「報酬削減」の提案 

 ともあれ、大阪維新の会に所属する議員たち(その大半の出自は自民党)が、具体的にいい出していることがある。
 大阪市の議会においては、福島区や生野区の市議会議員補欠選挙の勝利を経て大阪維新の会議員団が一挙に勢力を拡大した。そして同議員団(13人)は、9月定例会に議員報酬と議員定数を削減する2つの条例改正案を提出した。議員定数(現在89)を45に半減させ各選挙区の定数を1〜4に再編する案と、議員報酬(月額102万円)を一律3割カットするという大改革案だ。提案理由は「行政サービスの低下を防ぐために、議員が先陣を切ってコスト削減しなければならない」とのことであった。また、いまや大阪府議会の最大会派となった大阪維新の会府議団も、府議会9月定例会に、議員定数(現在112)を88に削減する条例改正案を提出した。
 一般に「議員の数が多すぎる」との批判は根強く、報酬の高さとともに有権者の関心を集める。名古屋市の河村たかし市長が、自身の人気と住民感情に乗じて仕掛けたのが議会解散の直接請求だ。橋下知事もその人気を生かして、2009年の堺市長選挙、2010年に入って大阪市の2つの区の市議補選に圧勝してきた。そんな経験に照らせば、選挙区の定数を減らし、とりわけ「1人区」にすれば維新の会の候補者が有利になるという計算があることもみえている。
 つまりこれらの提案は、2011年春の統一地方選挙にむけて、世論を惹きつけるパフォーマンスであるだけではなく、党利党略上の実利もともなっているのだ。1票の格差が広がることや議席の少数化によって、組織的基盤をもたない(いわゆる市民派など)議員が排除されることなどは、維新の会議員の眼中にない。
 また、市民の関心が高い「経費削減」を押し立てる提案が他の会派や議員の反対で否決されることにでもなれば、自己の正当性を宣伝できるチャンスとなる。しかしまさか、「議員報酬の削減」など自己の身を削る提案をする場合、「否決」によって収入低下を免れることを密かに期待してはいまい。提案したその日から提案内容となる削減額を自主的に返納するくらいの態度を示せば、その証しとなるだろう。
 もっとも、公職選挙法の規定により「返納」は困難だ。ただし、一部額の受け取り辞退という方法がある。実際、私は議員の任期中にお手盛りで報酬等を引き上げることに反対した。そして、賛成多数で可決された引き上げ額の受け取りを当該任期中は拒否してきた。その合計額はすでに1122万円余りになっている。

『市政研究』169 お任せ「地方主権」か「参加民主主義」か (その2)