4 首長が自身の政党の勢力拡大をはかるということ

 大阪維新の会は橋下知事が旗を振って結成し、みずからその代表を務めている。府庁舎のWTC移転をめぐって府議会の抵抗にあった経験から、議会多数の支持を得なければ知事の強大な権限も制限されることを身をもって感じ、影響力強化が必要だと思ったのであろう。地方自治体に「議院内閣制」の導入を……というさきの主張は、その行き着く先にある。
 しかし、現行の地方自治制度はあくまで二元代表制である。執行権をもつ首長を議会が監視するという仕組みに基づいて、両者が牽制し、また協力し合って自治体運営にあたることで成り立っている。
 余談だが、橋下知事の全面的支援をうけて当選を果たした堺市の竹山修身市長は、就任直後に副市長選任議案を議会に提出した際、候補者のひとり(市長の高校同級生)が公職選挙法抵触を疑われる行為をしていたことが指摘され、議案を撤回した。さらに、市長選挙の際に後援会事務局長として貢献した人物(府時代の部下)を市職員に採用したことが「人事の私物化」だと市議会で指摘され、辞めさせざるを得なくなった。さらに2010年の8月定例会では、大阪府の災害用備蓄水を市長選挙の際に使ったのではないかという疑いを私が本会議で質したところ、全面否定するかたわら質問とは関係のない言動で追及をはぐらかそうとした。市議会全体が竹山市長の対応を問題視したため、会議は6時間半にわたってストップし、市長は陳謝と発言の撤回をするはめになった。
 ともあれ橋下知事は、2011年春の統一地方選挙で改選となる府議会と大阪・堺両市議会で大阪維新の会の議員が過半数を占めることを目標にすると公言している。また、統一地方選挙後、12月の大阪市長選挙に知事を辞めて立候補する話さえ、平松邦夫市長との公開意見交換の席で持ち出した。つまり知事は、府・大阪市・堺市で自身または自身の息がかかった人物を首長に据え、それをチェックする各議会でも自己の地域政党に所属する議員だけで意思決定をすることをめざしているわけだ。
 橋下知事はしばしば選挙で選ばれたことを根拠に自分の意見を通そうとする(たとえば、関西空港と大阪空港の経営統合をめぐる「産経新聞」2010年9月30日夕刊の記事)。しかし選挙で投票する際、有権者は候補者にすべてを白紙委任したわけではない。また、反対候補に投票した有権者の思いをいっさい排除する施策遂行が当選者に認められたわけでもない。
 そもそも住民の間には多様な思いや主張があり、これを調整しながら誰もがより納得できる政治を行うことが民主主義の基本のはずだ。そのため、具体の施策遂行にあたっては議会に諮ることが義務づけられていることもあれば、多くの住民の合意を得る手続きが必要な場合もある。
 橋下知事と知事を支持する議員だけで意思決定をなし得るようになった場合、住民意思はどのようにして地方政治に反映されるのだろうか。

5 各地で実践される「議会改革」だが…

 ところで、住民が議員定数や議員報酬の額に不満を抱くのは、議会が与えられた機能を十分に発揮しているのか、また議員が報酬額に見合うような仕事をしているのかということに対する不信に基づくものであろう。
 地方分権の推進にあたって、役割の重要性を増す議会の改革が必要なことが指摘されて久しい。三重県では、1995年に北川正恭知事が当選して県政改革に乗り出すのとあわせて県議会が改革に取り組んできた。対面演壇方式や一問一答の質疑方法を選択可能にして議論をわかりやすくしたり、傍聴席での写真・ビデオ撮影・録音なども解禁して傍聴環境も整えている。各地に議会改革の波がおよび、大阪府議会でも対面演壇方式や一問一答質疑を実現させたが、大阪市や堺市の議会での改革速度は遅々としたものである。

『市政研究』169 お任せ「地方主権」か「参加民主主義」か (その3)